『縛られたプロメーテウス』

公演を見に行こうかどうか迷われている方へ

演劇に興味がある方も、興味がない方も『縛られたプロメーテウス』に足を運ぼうかどうか考えていらっしゃる方、全ての方にお読みいただければ幸いです。

今回私が取り組むのはアイスキュロスというギリシア悲劇作家(紀元前5世紀)の『縛られたプロメーテウス』という戯曲です。プロメーテウス神話は、ウィキペディアなどでも簡単な紹介が読めます。面白いので、是非読んでみてください。

アリストテレス『詩学』によれば、プロメーテウスを扱った劇は「冥界劇」に属すると言われます。これは、視覚的・聴覚的効果を効果的に使った劇の分類に入ります。

悲劇や喜劇とは違い「冥界劇」というジャンルは、今の芝居の世界には存在しないジャンルです。死の世界を扱った物語をどう演出するべきか。それがこのジャンルの使命ということになります。

私はずっと、統合失調症ないし狂気をテーマに演劇作品を作ってきました。そもそも狂気とは何か、狂気はどのように社会の中で表象されるか、狂気と正常の違いは何かなどです。

プロメーテウスはゼウスを裏切り、磔にされます。周りからの相談に反して、頑なに折れずに自分の信念を貫き通します。いつか彼を救う男が現れることを信じて、彼は苦痛に耐え忍びます。

希望が大きければ大きいほど、現実はプロメーテウスには辛いのです。

そんな彼の姿勢をヘルメースは「狂っている」と言います。つまり、ゼウスに孤独に反抗する姿勢は、オリュンポスの神々にとってみれば「狂気」なのです。

狂気の詩学とはどういうものか。狂気の戯曲はどのように上演され、演じられるのか。それを今回は取り扱います。

これまで続けてきた本山さんとの対話を経た、一つ目の作品として『縛られたプロメーテウス』を上演したいと思います。

興味があれば、是非劇場へ足をお運びいただければ幸いです。

横田宇雄

<プロフィール>
本山大
元プロボクサー(APKF)。アート・プロデューサー。
高校時代から哲学に目覚め、クラスメートや家族からの抑圧に対抗する手段を考え始める。
その一つの方法としてボクシングを実践し、大学卒業後はプロボクサーとしても活躍する。
2004年頃から精神病院に入院・通院するようになる。
現在は、自らを抑圧する目に見えない根源を探している。

近年では、太田信吾監督『解放区』(2013)、『わたしたちに許された特別な時間の終わり』(2014)などにも出演する。

よこたたかお
劇作家・演出家。
統合失調症を身近に感じながら、中学・高校生活を送る。
インターネット登場以降のメディアのあり方、生活のあり方を探る。
2007年から本山大と出会い、対話を続けている。